血清鉄(Fe)

血清鉄の概要

この項目は、血液中の鉄(Fe)の量を調べる検査です。

体内に存在する鉄は主に、赤血球中に含まれるヘモグロビンを作るための材料として使われます。

鉄は食物から1日に約10~15mg程度摂取されていますが、吸収されるのはその10%程度(約1mg)です。

食物より摂取された鉄分は、胃液中の塩酸により2価の鉄イオンとなり十二指腸、空腸から吸収されます。

成人で1日に約1mgの鉄が汗や尿、便などから排泄されています。
ただし、女性の場合は、20~30mgの鉄が月経によって失われます。

健常成人の総鉄量は3~5gで、生体内の約 2/3 が赤血球内のヘモグロビンに、1/3 弱はフェリチンやへモジデリンとして肝臓などに貯蔵されています。

血液中に存在する血清鉄は全体の0.1%程度で、トランスフェリンと呼ばれる蛋白と結合して存在しています。

赤血球が寿命を迎えて壊されると、ヘモグロビン内の鉄は再度ヘモグロビンの材料として使われるか、貯蔵鉄として蓄えられます。

血清鉄が低い値を示す原因

1)鉄供給量の不足
過度なダイエットや偏食などによる食事からの鉄分の摂取不足、消化管からの鉄の吸収障害が起こると、鉄の供給が不足するため、血清鉄の減少が起こりやすくなります。

2)鉄需要量の増大
妊娠や成長期には、鉄の需要が増大するため、血清鉄の減少が起こりやすくなります。

3)鉄喪失量の増加
体内での慢性的な出血や月経過多がある場合、鉄の吸収量よりも喪失量が上回るため、血清鉄の減少が起こりやすくなります。

各疾患と血清鉄

鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血の場合、赤血球中のヘモグロビンを作るための鉄が不足することにより起こる病気のため、血清鉄は低い値を示します。

慢性出血(消化管出血、痔など)
少量の出血が体内で慢性的に起こることにより、鉄の喪失も持続的に起こるため、血清鉄は低い値を示します。

肝障害
肝障害(急性肝炎など)によって肝細胞が破壊されると、肝臓内に蓄えられていた貯蔵鉄が血液中に放出されるため、血清鉄は高い値を示します。

再生不良性貧血
再生不良性貧血の場合、骨髄における赤血球の産生が低下しているため、鉄の利用が減少し、体内に鉄が余ってしまうために血清鉄は高い値を示します。

慢性疾患(慢性感染症・慢性炎症性疾患)
慢性疾患の場合、白血球(単球・マクロファージ)からサイトカインと呼ばれる物質が放出され、これにより赤血球の産生が抑制されたり、鉄の利用障害・赤血球の産生を促すエリスロポエチンの産生が抑制されたり、網内系細胞による赤血球破壊の亢進などが起こり、これらの要因が重なって血清鉄が低い値を示すようになります。

血清鉄の生理的変動

性別による変動
男性に比べて女性は低い値を示します。
これは主に、月経による失血が原因です。

年齢による変動
高齢者では低い値を示す傾向があります。

その他の影響による変動
日内変動があり、朝高く、夜低い傾向があります。

検査の目的

1)貧血、特に鉄欠乏性貧血や鉄過剰状態を疑う場合やその経過観察のため
2)貧血の鑑別目的

参考基準値(単位:μg/dl)

男性 : 50 ~ 200

女性 : 40 ~ 170

※基準値は施設ごとで異なる場合があります。

血清鉄が異常値を示す病態

高い値を示す場合
再生不良性貧血、鉄芽球性貧血、巨赤芽球性貧血、ヘモクロマトーシス、肝炎 など

低い値を示す場合
鉄欠乏性貧血、真性多血症、悪性腫瘍、慢性炎症性疾患 など